質の良い睡眠を心がけることが認知症予防になる
最近話題の認知症と睡眠の関係。普段でも、睡眠が足りないと頭がぼーっとして集中力がなくなる、といった体験はあると思います。
そんな睡眠不足が認知症への近道だということがわかってきました。
そもそも睡眠と記憶の関係の話はかなり前から経験則的に言われています。
テストの前日は徹夜より一旦寝た方が頭に入っている、という経験だったり、
8時間寝たら頭が冴えてる、といった経験もあるのではないでしょうか?
睡眠中、脳は記憶を整理します。それとともに様々なホルモンも調節され、心体のバランスを保ってくれています。
今回は、睡眠に関する国立精神・神経医療センター精神保健研究所の実験データと、同センター部長の三島和夫先生、日本睡眠教育機構理事長の宮崎総一郎先生の寄稿を参考にしながら、認知症予防に大切な睡眠について考えたいと思います。
寝ているようで寝ていない?潜在的睡眠不足とは?
●睡眠時間は減少していく
1日の睡眠時間は個人差があります。日本人では、成人で7時間前後の睡眠をとっている方が一番多いそうですが、
世界各国のデータをまとめた研究によると、
25歳では約7時間、45歳では約6.5時間、65歳では約6時間というように、
25歳からは20年ごとに30分程度の割合で睡眠時間は減少することが明らかになっています。(Ohayon MM, et al.: Sleep 2004; 27: 1255-1273)
気候等の条件によって睡眠時間は前後しますが、
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」では、
年齢や季節に応じて、昼間に眠気で困らない程度の睡眠を、
と呼びかけています。
●昼間に眠気で困っていなくても睡眠不足になっている
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所のグループが、ある実験を行いました。
昼間の眠気を感じていない20歳代の男性15人を対象として、防音・遮光された寝室で1日あたり12時間を目安に、9日間にわたって寝てもらう、という実験です。
途中で目が覚めても寝室から出られないので、二度寝、三度寝をすることになり、9日もすれば、必要な睡眠時間がわかるというものです。
初日は平均10時間33分で、その後徐々に減りましたが、最終的に必要な睡眠時間は8時間25分と試算されました。
20歳代の男性の標準的な睡眠時間は約7時間20分ですので、約1時間の睡眠不足が生じていることになります。
●自覚のない睡眠不足が体に与える影響は?
この自覚のない睡眠不足が体に与える影響を調べるために、インスリン、甲状腺ホルモン、ストレス関連ホルモンなどの内分泌系を調べました。
すると、もともと健康男子ですので異常値ではないものの、9日目にはより望ましい数値になった、ということでした。
つまり、普段十分な睡眠時間を確保していると思っていても、知らず知らずのうちに心身に少しずつ負担がかかっている、ということがわかったのです。
このような本人が自覚できない睡眠不足を、「絶対的睡眠不足」と研究グループは命名しました。
●「絶対的睡眠不足」を確かめる方法は?
このグループは、絶対的睡眠不足を解消するために、まず自分の状況を確かめる方法を紹介しています。
しっかり眠気が来てから、個室で目覚ましをかけず、遮光カーテンを引くかアイマスクをし、耳栓をします。
途中で一旦目が覚めても、それ以上寝ることができなくなるまで眠ります。
その睡眠時間が過去1週間の平均睡眠時間より3時間以上長いようであれば、普段眠気を感じていなくても睡眠習慣を見直す必要がある、
と報告しています。(ナショナルジオグラフィック日本版より)
いかがでしょうか?
もちろんただ寝ればいいわけではないでしょう。
他にも”眠りの質”や日常の活動状況も色々関係してくるとは思います。
しかしながら、自覚のない睡眠不足は少しずつ体を蝕んでいく、そんなことを訴えるような実験結果だったと思えます。
では、忙しい現代人の睡眠事情。睡眠時間が確保できない人はどうしたらいいのか、6時間すら睡眠時間を確保できないその危険性について紹介します。
睡眠不足が脳のゴミを増やし、認知症を招く
ここからは、日本睡眠教育機構理事長の宮崎総一郎先生の睡眠に対する最新研究を考察しながら認知症と睡眠について考えます。
●眠ることで成績がアップする
”睡眠”は、ただ肉体的な休息をとっているだけではありません。
睡眠中に脳は記憶を整理して、メンテナンスもしているのです。
小さい子供がいる方はわかるかもしれませんが、子供寝言を言ったり、
起きてすぐに直前にあったり昨日の出来事を口に出したりします。
眠っている間に脳が記憶を整理しているので、そのまま喋りだすのです。
つまり寝るたびに、脳はアップデートされ、賢くなるというわけです。
実際に正確にタイピングする試験を眠らずに2回するのと眠った後2回目の試験をするのでは、眠ったほうが成績がいいとい実験データもあります。
徹夜の勉強は逆効果というわけです。
さらに、16時間以上も起きたままの状態だと、
酔っ払っている時と同じ程度にまで脳の機能が低下することがわかっているそうです。
こんな状態でもし車を運転したらと思うとゾッとしますよね。
●脳のゴミは睡眠中に掃除される
脳は大量にエネルギーを消費しています。
全身で使うエネルギーの約20%は脳が消費すると言われています。
(ちなみに20%は肝臓、20%は筋肉、心臓は10%と言われています。)
脳を動かせば老廃物であるゴミが溜まっていきますが、このゴミが認知症の原因になるのです。
そしてこうしたゴミは、睡眠中に大掃除されることがわかっています。
細かく機序を説明すると、
脳の中ではグリア細胞という細胞が、神経細胞であるニューロンに栄養を補給してサポートしています。
このグリア細胞が睡眠中に縮むことでできる脳の隙間からゴミが排出されるという具合です。
睡眠不足は認知症のみならず糖尿病や肥満、高血圧、心臓病、精神疾患にも関わっています。
脳だけでなく体中のゴミを排出するためにも、睡眠は大切ですが、
この睡眠不足を自覚していない人が多いのが現代人の特徴とも言えます。
●「寝つきがいい人」は要注意
現代人は昼夜の感覚がマヒしていると言われています。
夜も明るくしていたり、スマホやテレビを寝る前に見ていると、脳はそれだけ働くことになります。
これだと浅い眠りになってしまいます。脳にしっかりと睡眠を取らせることが大切になります。
睡眠には、覚醒、うとうと、スヤスヤ、ぐっすりの4段階があり、
実は健康な人は入眠までに15分から20分かかります。
ベッドに入るとすぐに寝てしまう人や、横になると8分未満で眠ってしますような「寝つきのいい人」は、睡眠不足の可能性が高いのです。
眠れないからスマホを見る、というのは非常に不健康と言えます。
認知症予防に質の良い眠りが大事
潜在的睡眠不足を克服して深く質の良い眠りをすれば、脳の活動も良好に保たれます。
ただし、ただ長く寝ていればいいというものではないようです。
●不眠症の診断基準
認知症予防に睡眠をとりましょう、といっても、実は「不眠症」という病状であって、治療が必要な場合があります。
不眠症の診断基準は、
以下の3つの症状が1ヶ月以上続いた場合です。
- 入眠障害 なかなか寝付けない
- 中途覚醒 何度も目が醒める
- 早期覚醒 朝早く目が醒める
よく寝た気がしない、というのは診断基準には入っていません。
さらに、
朝起きた時に疲れがなく、昼間に眠気を感じず生活に支障がなければ、
睡眠時間は足りていて、質も問題ないと判断されます。
●高齢者は長く寝るほど高血圧になる?!
ある調査では、7〜8時間睡眠で高血圧になるリスクを1とした場合に、
32〜59歳では睡眠が5時間以下だとリスクが1.6倍にになり、睡眠時間が長いほどリスクが低くなったそうです。
しかし、60〜82歳では、睡眠が5時間未満の場合は0.85倍、9時間以上になると1.31倍になるという若い人とは逆の結果になったそうです。
それはなぜでしょうか?
●基礎代謝によって睡眠時間は異なる
思えば、赤ちゃんは1日のほとんどを寝て過ごします。
そこからも、睡眠が脳のメンテナンスと身体の成長に必要であるということはわかりますが、成長するとともに睡眠時間は減ります。
睡眠は年齢の影響を受ける、ということです。
具体的には、だんだんと中途覚醒の時間が長くなり、睡眠は浅くなります。
その差は「基礎代謝」です。
基礎代謝は、生命活動を維持するために必要なエネルギーのことですが、
筋肉量に比例します。
若い頃は活発に体を動かすので長くぐっすり眠れますが、年齢を重ねると活動そのものが減るので、筋肉量も減り、長い睡眠は必要なくなるわけです。
アメリカの睡眠財団の発表によれば、26〜64歳の場合、推奨睡眠時間は7〜9時間、許容睡眠時間は6〜10時間ということです。
個人差が大きいですが、多くの成人は、最低6時間の睡眠が必要なようです。
●「眠れない」と悩むなら筋肉量をアップさせよう
基礎代謝が落ちると睡眠が必要なくなる、基礎代謝は筋肉量に比例する、という観点でいえば、眠りたければ基礎代謝をあげればいい、ということになり、
それは筋肉量を増やす、ということになってきます。
もちろんそれだけではないですが、現在多くの医療機関で高齢者向けの筋肉トレーニングを行うリハビリが増えています。
ロコモティブシンドローム(運動器症候群)で寝たきりになることを防ぐためにも筋肉量を増やすことは推奨されています。
快眠体質に変身して認知症予防
筋肉量を増やすのも大事ですが、睡眠習慣を見直すことも大切です。
そして体質を快眠できる体質へと変えていく必要があります。
●眠くないなら寝床に入らない
年齢を重ねるにつれて、不眠で悩む人は多くなります。
睡眠薬を処方してもらうことも増えます。
認知症予防の観点から、睡眠薬は多用するべきではないと考えられますが、
病的な不眠では睡眠薬を適切に使っていく必要があります。
ただ睡眠薬を使う前に、今一度睡眠習慣について振り返って見てください。
まずは睡眠時間にこだわらないことです。
睡眠時間は個人差もあり、年齢によっても変わりますから、
昔からよく言われる「8時間睡眠」にこだわる必要はないのです。
さらには、寝る時間になったから寝床に入るのではなくて、眠くなったら寝床に入るようにまずはしてみましょう。
夜と朝の境目がなくなるかもしれませんが、まずは寝床で悩まずに寝る、という感覚を身につけましょう。
これは「認知行動療法」と言って、睡眠薬の効果が感じられない人に薬以上に効果が出ることがあります。
●快眠体質に変わる3つの方法とは?
睡眠をコントロールしているのは、
- 体内時計機構 夜になったから眠る
- ホメオスタシス(恒常性維持機構) 疲れたから眠る
の2つです。
1の体内時計機構に関しては、まずは気にせず眠たいときに寝ること、
それから徐々に体内時計をリセットするために、朝は太陽光を浴びます。
そうすることで約15時間後に「メラトニン」というホルモンが脳内に作られて
夜に眠れます。
2のホメオスタシスについては、疲れることで睡眠を促す物質が脳内にたまるという作用です。
宮崎先生は、睡眠のリズムを整える生活術として、次の3つを提唱しておられます。
①カーテンを10cm開けて眠る
毎朝、ほぼ同じ時間に起きることが重要なので、朝の光が寝室に差し込むようにします。
太陽光によって交感神経が刺激され、筋肉や内臓が活動モードに入ります。
②朝食をとる
食事も交感神経を刺激します。
朝食のメニューとしてオススメなのは、「トリプトファン」が入った
納豆や卵、牛乳です。
トリプトファンは必須アミノ酸の1つで、体内でセロトニンに変わった後、メラトニンに変わります。
③朝の外出
朝の社会活動も睡眠のリズムを整えるうえで重要です。
起きてから2時間以内に外出して朝の光を浴びるのが良いそうです。
家に閉じ困らず外に出ることで気分もスッキリします。
その気持ちが何より大切ですね。
いかがでしたでしょうか?
睡眠の質をよくすることで高血圧が解消されたり、体重が減った人、うつ症状が改善した人も多くいらしゃいます。
何より睡眠不足を感じた時の体の負担は誰しもが経験してますから、
それがどれだけ体に負担をかけているかを知るべきでしょう。
他にも睡眠の質をよくする方法はたくさんあります。
音楽やアロマ、鍼灸も良質の睡眠が得られることが実証されています。
今後も色々と紹介していきます。
認知症予防は1日で成らず、思い当たったらすぐ行動、が原則です。
ぜひ参考にしてみて下さい。