最近よく見るニュースに、”アルツハイマー病の患者の脳で歯周病菌が見つかった”というニュースがあります。
米ルイビン大学のヤン・ポテンパ博士らが出した論文で話題になったと察しましたが、実は歯周病は以前から認知症と関係があるのではないか?と研究されてきた分野です。
歯周病のみならず口腔環境の異常は、脳のダメージを表すという研究は色々と発表されています。
先の論文では、慢性歯周病菌の原因菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス菌が口から脳内に移行し、それに伴ってアルツハイマー型認知症の原因の1つであるアミロイドβの蓄積も増加する、という内容でしたが、
歯周病菌が脳内に移行して脳の機能を低下させていく、というのは恐ろしい話ですよね。
というわけで今回は、最新の歯周病の見解として東京医科歯科大学名誉教授の和泉雄一先生の寄稿を教科書に、認知症予防にもなる歯周病のケアについて紹介していきたいと思います。
口腔がんも気になる話題ですので、口の中を定期的にチェックするのは必須ですね。
歯周病は万病のもと、口腔ケアは認知症予防の第一歩
歯周病は、進行すると歯が失われることもある病気ですが、その他にも全身に広く悪い影響を与えると言われています。
具体的には、脳梗塞、心筋梗塞、動脈瘤、糖尿病、誤嚥性肺炎、関節リウマチ、腎臓病、早産、低体重児出産等、そしてアルツハイマー型認知症です。
その理由は、歯周から侵入した歯周病菌が炎症部位から血液中に侵入して、全身をめぐることと、
炎症が起きることによって大量の炎症物質(サイトカイン)が全身にめぐることにある、と言われています。
実際歯周病菌は脳に入ってしまうことは確認されていて、特にアルツハイマー型認知症の患者さんの脳には、歯周病菌が多く存在していた、との報告があります。
今後、この歯周病菌がどのようなメカニズムでアミロイドβを増やすのか、認知症の発症にどのくらい関係しているのか、認知症の特効薬になる可能性など、様々な研究がされていくと予想できますが、
現時点では、この歯周病のケアを適切に行っていくことが、認知症の予防になると言えるでしょう。
歯周病とは?
まずは歯周病についておさらいしてみましょう。
歯周病とは、簡単にいうと歯ぐき(歯肉)の細菌感染症です。
細菌に感染した歯ぐきは炎症を起こし、歯を支えているセメント質や歯根膜、歯槽骨が破壊される病気です。
進行すると歯が抜けることもあります。
歯槽膿漏や歯肉炎とも言いますが、歯肉炎が歯槽膿漏になって、まとめて歯周病というので、大きくは歯周病の中に歯槽膿漏も歯肉炎も含まれると思って差し支えないでしょう。
実は歯を抜く、又は抜ける原因としては、歯周病は虫歯をおさえて原因第一位の病気です。
厚生労働省が2016年に行った調査によると、進行した歯周病のある人の割合は、
20歳代後半から30歳代前半の若い世代で3割以上になり、加齢とともに増加し、55歳以上では5割以上にもなります。
軽症の人を含めると、日本人の7割に歯周病の症状があると推定されているそうです。
認知症のアミロイドβが溜まっていくのが40歳代からと言われていますので、
それより少し早めに始まるようです。
歯周病と認知症が何か深く関係がありそうなタイムラグですよね。
あなたは歯周病?早速チェックしてみましょう
さて、では歯周病かどうか簡単にチェックしてみましょう。
和泉先生のチェックシートを参照します。
- 歯ぐきがムズムズしてかゆい
- 歯ぐきが浮いた感じで腫れぼったい
- 歯を磨くと歯ぐきから出血する
- 朝起きた時、口の中がネバネバする
- 歯ぐきを押すと血や膿が出る
- 口臭を指摘された、もしくは自分で口臭があると感じる
- 歯ぐきの色が赤黒い、歯ぐきが腫れている
- 歯と歯の間に食べ物が挟まりやすい
- 歯を触ると、歯がグラグラする
上記の項目が3個以上当てはまる場合は、歯周病の疑いがあります。
もし7〜9の1つでも当てはまる場合は、すでに重症化している可能性があります。
意外と当てはまる人は多いのではないでしょうか?
3個と言わずに1個でも当てはまったら、一度歯医者さんに行ってみるべきでしょう。
歯周病の原因は?放っておいたらどうなるの?
●歯周病の原因とは?
歯周病の原因は、歯と歯ぐきの間にたまる歯垢(しこう、プラーク)です。
もちろん歯垢は食事の食べカスが歯と歯ぐきの間に溜まってできるものですから、溜まりやすい食事をとったり、歯みがきが充分にできていなかったり、唾液の分泌が悪いと、歯垢は取れずに溜まっていきます。
歯垢の中には歯周病菌などの多くの菌が住んでいます。
そしてこの歯垢が溜まってくると石灰化して硬くなり、歯石という、より取り除きにくいものへと進行していくのです。
●歯周病を放っておくとどうなる?
歯と歯ぐきの間にプラークが付着し、だんだんと歯ぐきが赤く腫れたり出血したりします。
この状態を歯肉炎と言いますが、歯を支える骨である歯槽骨までは到達していないので、まだ歯が抜けるまでには行きません。
それがだんだんと歯と歯ぐきの間の歯周ポケット深くに菌が入り込んでいって、炎症が広がり、歯槽骨が少し溶け始めます。
歯がムズムズしたり歯ぐきを触ると柔らかく感じたりします。
さらに進行すると、どんどん深く炎症が起き、歯がグラグラし始めます。
実はこの段階になって初めて、歯医者行ったほうがいいかな?と思う人が多いそうです。
さらに放っておくと、歯槽骨の破壊が進み、歯ぐきが下がって歯が伸びたように見えます。
そして歯ぐきから膿が溢れ出し、歯が抜けていく事態に陥ります。
認知症予防のために考えるべき歯周ケアの時期は?
アルツハイマー型認知症の患者さんの脳内で、歯周病菌が発見されたことは冒頭に記した通りですが、
歯周病菌はどの段階で脳内に移行するのでしょうか?
実は歯周病の初期の初期から全身に巡っている可能性が高いのです。
歯垢が溜まって歯ぐきが腫れた時には、炎症反応が起きて炎症性物質は全身に巡っています。
この炎症性物質(サイトカイン)も認知症には昔から悪いと言われていますが、
出血した時点で、歯周病菌もまた確実に、血管に乗って全身に運ばれています。
つまり、歯周病菌を脳に入れないようにするには、日々歯周病菌が増えないように違和感のない今からケアすることが最も大事になります。
歯周病自体は、通常は15年から30年かけてゆっくりと進行するとされていますので、違和感がないときからしっかりとケアすれば、歯が抜けることもないと思われます。
歯周病の治療は?
歯周病の治療は、その原因である歯垢や歯石を取り除くことです。
歯垢は日々の歯みがきで取れるものもありますが、歯石は歯科医院に行かないとなかなか取れません。
●歯科医院での治療
歯周ポケットに入り込んでしまった歯垢は、歯みがきでは取れません。
超音波スケーラーや手用スケーラーという特殊な器具を使って掻き出します。
それでも取れないほど奥深いところまで歯石がたまると、手術で歯ぐきを切ることになってしまいます。
これは是非とも避けたいですよね。
●自宅でのケア
自宅でのケアは、基本は歯みがきになります。
詳しい歯みがきの仕方は、
口臭がすると認知症の危険信号?!歯周病から来る口臭を防いで認知症予防
という記事の中で紹介しています。
歯みがきはブラッシングだけでなく、フロスを使って歯の隙間の食べカスも落としていきます。
薬用の口腔洗浄剤も併用するとより効果的でしょう。
歯を大切にすることは認知症予防になる
いかがでしたでしょうか。
今回は歯周病について紹介しました。
口腔内環境は歯周病のみならず全身状態を表すと行っても過言ではありません。
逆に言えば、口腔内環境を整えれば、改善する症状もあるということでしょう。
認知症になっていない高齢者は、自分の歯が多い、歯が丈夫である、というデータもあります。
今日から歯の状態をチェックして、違和感がなくとも3ヶ月に一度は歯医者さんに診てもらってはいかがでしょうか?