最近見かけたテレビのCMで、お菓子メーカーから「記憶力を維持する歯につきにくいガム」というものが発売されていることを知りました。
”記憶力を維持する”とはかなり大胆な広告だなと感じたのですが、ちゃんと機能性表示食品と書いてありました。
そしてその根拠となる成分は、「イチョウ葉抽出物」。
このイチョウ葉エキスというのは、認知症予防に有効な成分として知られています。賛否はありますが、その実態について考察しようと思います。
記憶力を維持するガムとは?
パッケージにしっかりと”記憶力を維持する”と書かれているガムが大手お菓子メーカーから発売されました。
かなりインパクトのあるガムですよね。”中高年向け”との記載もあります。
ここまで大胆に書けるのは、「機能性表示食品」の届け出をしているからです。
順に説明していきます。
機能性表示食品とは?
「記憶力を維持する」と商品パッケージに表示できる根拠は、イチョウ葉エキスを摂取することで言葉を覚え、思い出すという記憶に関する実験の結果を有意に改善した、という過去の実験データに基づいています。
機能性表示食品は、事業者の責任において科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品のことです。
トクホでお馴染みの特定保健用食品は、表示されている効果や安全性 については国が審査を行い、食品ごとに消費者庁長官が許可していますので、
特保に比べると国によるお墨付きがない分信憑性に欠けるようなイメージもありますが、
機能性表示食品の中には、実際に最終製品で臨床試験を行って、良好な結果を得られているものもあるので、各製品について消費者庁に届け出たデータが公開されているのでチェックしてみるといいでしょう。
(ちなみに今日の話題の記憶力を維持するガムについては、過去に同量の成分で行われた研究レビューを根拠に機能性表示食品としています。)
記憶力を維持する成分の正体はイチョウ葉エキス
イチョウ葉エキスとは、認知症サプリメントを調べたことがある方は聞いたことがあると思いますが、認知機能を改善効果があるとして世界的に有名な成分です。
実際にドイツやフランスでは、脳血液循環を改善する等の効果が認められていて、医薬品として使用されています。
ここからは、国立健康・栄養研究所 食品表示分析・規格研究部の報告を参照してイチョウ葉エキスの正体について考察します。
イチョウ葉エキスの概要
イチョウと言えばあの黄色い葉を思い出しますが、効果があると言われているイチョウ葉エキスは、
緑のイチョウ葉を乾燥させてアルコールまたはアセトンを使ってフラボノイドやテルペノイド類といった有効成分を抽出したものになります。
イチョウ葉エキスには、特に脳血管循環の改善効果を有するという報告があります。
現在、「頭が良くなる」「痴呆防止に効果あり」といったイメージが広がりつつあり、サプリメントやお茶などの健康食品にもイチョウ葉のエキスが入ったものが多く市販されています。
イチョウ葉エキスの効果とは?
イチョウ葉エキスは昔からその効果が研究されてきました。
●生理作用の報告
・抗酸化作用
イチョウ葉エキス中のフラボノイド類には、抗酸化作用、血小板凝集の阻害効果、 炎症細胞からの活性酸素産生の抑制作用が認められています。
・血液凝固抑制作用(血液サラサラ効果とも言える)
血小板活性化因子(PAF)は、血栓形成、アレルギー反応、炎症、 気管支収縮、脳循環系の機能障害を引き起こす情報伝達物質ですが、イチョウ葉エキスの中のギンコライドBはこのPAFの阻害物質であり、脳梗塞や動脈硬化の予防効果が期待されています。
他にも、高血圧を下げたり、高血糖抑制作用などの報告もあります。
●人を使った臨床試験における有効性についての報告
・認知症の改善
イチョウ葉を使った臨床実験では、アルツハイマー型認知症と脳血管型認知症の両方の認知症の症状を改善することが数多く報告されています。
例えばLe Barsらは、軽度から重度のアルツハイマー型認知症または脳血管性認知症の患者に対し、イチョウ葉エキスを52週間服用させています。
結果としては、認知力を測定するADAS-Cog(Alzheimer's Disease Assessment Scale-Cognitive subscale)スコアが、何も服用していない人に比べて有意に改善したと報告しています。
Kanowskiらは軽度および中等度の認知症患者にイチョウ葉エキスを24週間投与したところ、何も服用していない認知症患者に比べて有意な神経変性病変症状の改善作用を報告しています。
・記憶改善
健常人に対してイチョウ葉エキスを大量に投与した実験では、脳内α波を増加させ、記憶力を増大する結果が報告されています。
・脳機能障害の改善
イチョウ葉エキスの適応症として脳血管障害、めまい、耳鳴り、頭痛があり、末梢血管の血流促進による耳鳴り等の改善効果が認められています。
イチョウ葉エキスの副作用は?
イチョウ葉エキスでは、軽度の胃腸障害、頭痛、吐き気、アレルギー症状の副作用が報告されていますが、
適正な規格のイチョウ葉エキスであれば、1日量を守れば安全性は高いと考えられます。
注意すべきことは、血液凝固抑制効果があるので、
普段からワーファリン、バイアスピリン、リマプロスト、クロピドグレル、リクシアナ、エリキュース等の血液を固まりにくくする薬を服用している場合は、
出血傾向に注意する必要があります。
医薬品を服用中の方は他にもうつ病の薬等との併用でも副作用が報告されているので、医師や薬剤師に相談するべきでしょう。
その他話題になったのが、イチョウ葉に含まれているギンコール酸という成分です。
例えばイチョウ葉を自分で集めてきて、乾燥させてお茶を作ることもできますが、これにはアレルギーを引き起こすギンコール酸が多量に含まれていると考えられます。
ギンコール酸はアナフィラキシー症状や嘔吐、下痢を引き起こすので、日本でも製品としてのイチョウ葉エキスの中のギンコール酸量は規定されています。
しかし中には粗悪品があり、規定値以上のギンコール酸が含まれている場合があります。
エキスではないイチョウ葉茶などは、高い確率でギンコール酸は多量に含まれているので控えることをお勧めします。
以上が簡単なイチョウ葉の概要です。
まとめとしては、イチョウ葉エキスは医薬品として使用されているくらい効果が期待される成分ですが、日本では使われていません。
それは、長期的な服用による効果が薄いことと、ギンコール酸でのアレルギー症状のイメージによるところもあるかもしれません。
ただ、きちんとエキスとして抽出され、品質が保たれているものは、
一定の認知症予防効果が期待できると考えられます。
しっかりと噛むこと(咀嚼)は脳にも体にもいい
「記憶力を維持するガム」は、個人的にガムにしたことが良い方にも悪い方にもポイントだと思います。
昔から”噛むこと”は頭のみならず全身の健康にいいと知られています。
・唾液分泌の促進
噛むことでまず単純に唾液が出ます。
唾液をたくさん出すことは、口の中を清潔に保ち、虫歯や歯周病、肺炎などの原因菌を防ぐことがわかっています。
現代人はストレスからくるドライマウスの症状を訴える方が多く、ドライマウスが慢性化すると、免疫力の低下や誤嚥性肺炎、さらには味覚障害まで引き起こします。
唾液を出すことは一生大切なことになります。
・生活習慣予防
よく噛むことで満腹中枢が刺激されます。食べ過ぎを防ぎ、肥満を防ぎます。
現代食は噛むことが少なくなり、それが生活習慣病を引き起こすという話も今や当たり前となっています。
”一口30回噛む”といったダイエット法も一時期に流行りました。
”牛乳も噛んで飲め”という話もありました。
それは牛乳は以外と固形成分が多いことと、日本人の多くは「乳糖不耐性」であり、乳製品でお腹を壊す人が多く、口の中で噛むようにしてゆっくりと温めて飲めば、消化が緩やかになり消化酵素の動きも良くなるという観点からでした。
噛まないよりよく噛む方がいいことは誰もがなんとなくても納得できるでしょう。
・味覚の発達
咀嚼は味覚の源です。
よく噛むことで、食べ物の味を全部味わうことができます。
味を薄めにして素材の味をしっかり味わう方が味覚が鋭くなるといわれています。
子供の味覚の発達にも咀嚼が大切だといわれています。
・顔の筋肉を発達させ表情を豊かにする
口の周りは筋肉が多く、顔の筋肉は顔の印象を決める要素になります。
表情筋とも呼ばれますが、噛むことで顔に筋肉が衰えるのを防ぎ、表情豊かで若々しい印象になれます。
口元のたるみやシワを防ぐことも期待できます。
滑舌や発音も改善できますので相手の心に残る声を届けることができます。
・脳の機能を発達させる
ガムを噛んで脳の機能を調べる実験はいろいろと行われてきました。
ガムを噛むと脳の運動野、感覚野、小脳などが活性化されます。
特に高齢者では、知的活動に関与している前頭前野が活性化されることがわかっています。
さらに年齢とともに萎縮する海馬も活性化され、記憶力が上がるという結果もあります。
・ストレスを解消する
ガムを噛むことで過剰なストレスを受け流すことができることも知られています。
ガムを3分間噛むことで、過剰に興奮してストレス状態の脳の扁桃体と前頭前野の活動を抑えることができたという報告もあります。
その他にも、ガンの発生を防ぐとも言われていますし、日常でも奥歯を噛みしめることで力が出ることは誰しもが経験している事実だと思います。
このように”噛む”という動作は、心身の健康に重要な動作でありながら、軽く考えられがちの動作だと思います。
認知症予防のためにも日々の食事からしっかり噛むことや、滑舌よく口をしっかり動かして話すことを心がけましょう。
ガムの問題点
ガムの良い点を書きましたが、実はガムは人体にあまり良くない側面もあります。
一番問題なのが人工甘味料です。
大体のタブレットタイプに入っている甘味料として、キシリトール、アスパルテーム・L-フェニルアラニン化合物、アセスルファムKがあります。
これらの人工甘味料は、ジュース、お菓子等にも今や当たり前のように入っていますが、やはり人口物は体には良くないようです。
詳しくは別で記事にしますが、
特にアスパルテームとアセスルファムKは、認知症の予防という観点としても摂取したくない成分です。
●アスパルテーム
アスパルテームは、その成分がインスリンとレプチンを極端に刺激すると言われています。
インスリンとレプチンは新陳代謝を制御する作用から、太りやすくなるということが報告されています。
さらにアスパルテームを摂取すると、上昇した血糖値が下がりにくい状態になるり、糖尿病のリスクを上昇させると言われています。
●アセスルファムK
アセスルファムKには塩化メチレンという発がん物質が含まれています。
一定の量が体内に吸収されると、高確率で発がんすることが分かっています。
さらにアセスルファムKは体内で代謝されないので、腎臓や肝臓に負担がかかります。
代謝されないのでカロリーゼロではありますが、血糖値はあげるので、糖尿病の方は逆に摂取しないほうがいいことになります。
まとめ
今回は今話題の記憶力を維持するガムについて取り上げました。
・機能性表示食品である根拠は、一部の国では医薬品になっているイチョウ葉エキスによる。
・イチョウ葉エキスはその有効性から認知症予防としても効果が期待できるが、アレルギーを起こすこともあるので、イチョウ葉そのものではなくエキスとして抽出されていて、良品を選ぶことがおすすめ。
・噛むことは脳にも体にもいい。
・ガムの人工甘味料は長期的に見ると健康を害する可能性が高い。
ということになります。
認知症予防に有効なイチョウ葉エキスを摂取をするには、日本では良品のサプリメントを選ぶことになりますが、
もちろんイチョウ葉成分だけでは認知症の発症を予防することは難しいでしょう。
長期的にイチョウ葉を摂取して認知症を予防できたというデータもありません。
認知症の要因は人それぞれに様々にありますので、
サプリメントもより多くの成分があるものを選んで、食事、運動、頭の体操等のいろいろな予防法を継続的に行っていくことが必要だと考えます。
認知症協会では、様々な知識を発信していきます。
認知症の要因は知能の低下だけではないので、知識だけあっても認知症の発症は防ぐことができないかもしれませんが、
少なくとも積極的に知識を得ようとする姿勢は、認知症予防につながると言えるでしょう。
認知症は予防がすべての病気です。
いいと思ったことは1つでも多く取り入れた方がいいでしょう。
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