抗認知症薬アデュカヌマブについての解説動画

認知症の基礎知識

1億人が待ち望んだ新・抗認知症薬『アデュカヌマブ』は世界を救えるか?!

アルツハイマー病研究の大きな一歩が踏み出された!

アメリカ現地時間で2021年6月7日、認知症の薬としては18年ぶりの新薬である「アデュカヌマブ」がFDA(アメリカ食品医薬品局)で承認されました。

この薬は今までの抗認知症薬と違い、

アルツハイマー型認知症の根本的な治療薬の誕生か?!

ということで世界中が注目した出来事となりました。

2050年には世界の認知症人口は1億3000万人を超えると予想されています。

アデュカヌマブは世界を救う薬となるのか?今後の動向に注目です。

今回はこの新薬についての解説と、現時点(2012年6月8日)でわかっていること、今後の展望、認知症協会としての見解をご紹介します。

動画でも解説していますのでそちらも参考にしてください。

アデュカヌマブってどんな薬?

アデュカヌマブは、日本のエーザイ株式会社と、アメリカのバイオジェンが共同で開発した薬です。

商品名はADUHELM®︎(アデュヘルム)です。

認知症にはアルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性、前頭側頭葉型と大きく4つありますが、アデュカヌマブはその認知症の中でも約7割を占めるアルツハイマー病の薬として承認されました。

その他の型の認知症には効果がないの?というと

残念ながら効果はない

と考えていいでしょう。

それは、アデュカヌマブがアルツハイマー型認知症の原因と考えられているアミロイドβを標的として作られているからです。

アデュカヌマブはどうやって効果を発揮する?

どうやって効果が出るかについてですが、今までの抗認知症薬とは全く違う仕組みになります。

今までの抗認知症薬は、いわゆる対症療法の薬です。

意欲が低下してきた場合に、脳の情報伝達物質である”アセチルコリン”を増やして意欲を出させるような薬や、周辺症状(BPSD)を落ち着かせるような薬でした。

どちらも出てきた症状に対してそれを抑えるように働く薬でした。

ですが、アデュカヌマブはそれとは全く異なり、アミロイドβを直接減らせる薬となっています。

それはなぜかというと、アデュカヌマブはヒトモノクローナル抗体製剤という薬だからです。

ヒトモノクローナル抗体を簡単に説明しますと、ヒト由来で作られた、1つの種類の抗体の集合体という意味です。

抗体というのはもちろんアミロイドβに対する抗体ですが、アミロイドβに対してだけくっつく抗体を薬として体に入れて、その抗体を目印として食べてくれる免疫細胞を誘います。

だから、抗体で目印のついているアミロイドβがどんどん優先的になくなっていくという仕組みです。

抗体を使った治療法は抗がん剤の分野ではすでにたくさん使われています。

標的となる異物をとらえて分解するという方法ですので、アミロイドβそのものがアルツハイマー病の原因だとするならば、根本治療法になるということなのです。

アデュカヌマブはどうやって開発された?

アデュカヌマブが発見されたのは2006年で、もともとはアルツハイマー病になりにくい人の血液中から見つけられた抗体です。

アデュカヌマブは自然にできていた抗体というわけです。

それをバイオジェンが薬として開発していくことになります。

2012年から臨床試験が行われて、第2相試験では、認知機能低下抑制効果というものが初めて認められて話題となりました。

2015年には臨床試験の最終段階である第3相試験では日本のエーザイも参加して、1350人規模の治験を2回行っています。

ですが、2017年には有効性判断のために規模を増やしています。

結局合計1700人以上のの患者に対して試験をして、そこで中間段階評価が行われました。

その結果が実はよくなかった、つまり臨床的に効果がなかったと判断されたわけです。

細かくいえば2つの大規模臨床試験で一方は効果あり、一方は逆に効果なしとなったわけです。

それでアデュカヌマブは一度、開発中止ということになりました。

ですが、その中間段階評価から中止になるまでにまだ臨床試験を終えた300名以上のデータを合わせて解析し直したら、一転してこれは効果がある、と発表したという経緯があります。

そして今回FDAで承認されたということで、まさに逆転ホームラン、もしくは微妙なデータだが強引に承認にこぎつけた、というさまざまな意見があり、世界中の期待が高まっているわけです。

アデュカヌマブはいつ使えるようになるのか?

現在(2021年6月8日)の時点ではアメリカでのみ承認されている状況です。

アメリカでは早ければ今年中に発売されると思われます。

そのほか、EUや日本でも承認申請は済んでいます。

日本は厚生労働省が承認するかどうかを決める機関にあたりますので、その判断を待ってからの発売となります。

早ければ今年度中、来年には承認がおりる可能性がありますが、日本の場合は時間が長くかかる傾向にあります。

発売はその先となるでしょう。

アデュカヌマブはだれが使えるのか?

アデュカヌマブは誰が使えるのか?いわゆる適応範囲についてですが、これは臨床試験で行われたデータがそのまま使われることとなるでしょう。

実際行われた臨床試験は、50歳から85歳までの軽度認知障害(MCI)と初期のアルツハイマー型認知症の方です。

よって、適応もその範囲になると考えられます。

つまり、重度の認知症の方や、アルツハイマー型以外の認知症の方には使えないということになります。

新薬を使えるのも早期発見を心がけたひとのみ、ということになりそうです。

アデュカヌマブはどうやって使うのか?

ではアデュカヌマブは実際にどのように使う薬か?ということですが、これは静脈への点滴です。

月に1回点滴をして、試験では1年6ヶ月投薬されています。

外から入れる抗体ですので、体が自然にどんどん作ってくれるわけではありません。

ですので定着はせずに、点滴をしなければまたどんどん抗体は減っていきます。

ですのでいつまで点滴をし続けるのかですが、おそらく半永久的に続ける薬となります。

長く薬を入れることで効果が落ちていく可動化についてですが、長期継続投与試験では48ヶ月効果が継続するとしています。

その後はどうなるかわかりません。

バイオジェンも年単位でのコストを発表していますので、少なからず年単位で点滴をし続けることは間違いないようです。

アデュカヌマブの副作用とは?

臨床試験の段階で起きた副作用として、アミロイド関連画像異常(ARIA)というものがありました。

この副作用は簡単に言うと脳内の一時的な浮腫とこれに伴う出血です。

これがアデュカヌマブを点滴した人の約40%み見られたということです。多くは無症状で時間とともになくなりますが、その中のさらに24%が重篤になる可能性もあるということです。

これはきちっとモニタリングすることで危険を回避できるということで大きくは取り上げられていません。

実際に脳の浮腫に伴って、頭痛、錯乱、めまい、視力低下、吐き気などが現れる人がいたとのことです。

あとは蕁麻疹とか腫れなどのアレルギー症状も副作用として報告されています。

アデュカヌマブの実際の効果はどうなのか?

実際に臨床試験では、脳内のアミロイドβがどれくらい減ったかを調べています。

用量依存的・投与期間依存的に、つまりたくさん投与して長く続ければそれだけアミロイドβを減らせるということですが

各試験をまとめて59~71%減少させたと発表されています。

ではそのアミロイドβの減少が実際どういう効果として目に見えて現れたかというと、

まず前提として、臨床試験の対象はMMSEという認知機能テストの点数が24点から30点までの方です。

そしてアミロイドPET検査でアミロイドβが溜まっていると確認できている方です。

(MMSEは30点満点で、23点以下は疑い、27点以下は軽度認知障害疑いですので、認知症の方は対象外となっています。)

そして対象の方にアデュカヌマブを投与して78週でCDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)スケール

が22%抑制されたということです。

CDR-SBスケールというのは、本人以外の周りの方や、診察での問診で客観的に評価されるものです。

結論としては、アミロイドβが脳内に溜まっている人で、少し物忘れの始まった軽度認知障害の方、初期の認知症の方に1年半アデュカヌヌマブを投与すると、脳内のアミロイドβが半分以上なくなり、記憶、見当識、言語などの認知機能悪化が抑えられたということです。

また、金銭管理、家事、単独での外出などの日常生活動作の悪化が抑えられたということです。

気になるアデュカヌマブのお値段は?

アデュカヌマブを試したい場合いくらになるのでしょうか?

日本での薬の値段つまり薬価はまだわかっていませんが、アメリカでは年間コストが56000ドルとなっています。

日本円で約610万円です。

おそらく日本もこれに近いかもしくはこれ以上となる可能性があるので、月に50万円以上かかりそうです。

保険適応となりますのでその分負担は軽くなりますが、それでも月に1回10万以上はかかると予想されています。

さらにアデュカヌマブを投与するにはアミロイドβが溜まっていることが条件ですので、そのためにアミロイドPETという画像検査を受ける必要があります。

日本ではこの検査は保険適応外となっていて、実施する場所によりますがだいたい20万から30万円くらいになります。

この検査も投与条件になっているのでこれも含めて保険適応になるかは今後の発表に期待です。

ちなみにアミロイドPETは非常に大掛かりですが、血液中のアミロイドβを調べることで脳内の蓄積量を予測する方法も開発されています。

そうした革新的な技術で投薬前検査は費用を抑えられるかもしれません。

アデュカヌマブの問題点は?

非常に期待されているアデュカヌマブですが、実は問題点がたくさんあります。

まずは今回のFDAの承認が、条件つきの承認であるということです。

通常の承認と違って迅速承認という審査の時間が短い方法をとっていますので、承認後も臨床試験の結果を継続して報告しなければなりません。

それで臨床的に効果がないとなれば、承認は取り消しとなります。

次に適応範囲が限られているということです。

軽度認知障害(MCI)と早期アルツハイマー病の方が対象なので、できるだけ早期発見が必要になります。

そして重度の方は残念ながら対象とならず、効果もないということです。

アミロイドβを取り除いてもすでに失われた細胞は取り返せない、ということです。

そして費用の問題です。

抗体製剤というのは非常に高価です。

薬の値段はかけた研究費に比例しますが、今回も開発に莫大なお金がかかっていますので薬価は高くなるでしょう。

しかもそれを継続的にずっと打ち続けないといけないとなると、負担は増すばかりです。

アデュカヌマブがもたらす大きな影響とは?

迅速承認という形ですが、FDAはアデュカヌマブを「期待値が高い」ということで承認しました。

要は、効果がきちんとあるという判断は現時点ではできないが、

アルツハイマー病の薬に対する政界の期待値が大きく、それに応える必要もあるということです。

すっきりとしない承認ですが、いったんはアルツハイマー病に効果があると認めたわけです。

これがどういう意味を持つか、です。

今回、アミロイドβを標的とした薬がアルツハイマー病に効果あり、とされたことで長年研究者の中でも議論の中心であった、

『アミロイド仮説』が正しいということが証明されることになります。

つまり、アルツハイマー病の原因はアミロイドβである、と言えてしまうわけです。

そうなると、今後はこんアミロイドβを標的とした薬が一気に開発されると予想されますが、

実はアミロイドβを除去するような、今回のような抗体製剤はかなり前から開発されています。

そして実際にアミロイドβを減少させることもできています。

しかしながら臨床的に効果はなく、すべてが開発中止に追い込まれています。

今までと今回の薬の違いで臨床的な効果の違いを説明することは難しいでしょう。

今回の承認で、今までダメだった薬がもう一度試される可能性もありますので抗認知症薬の未来はどうなるか楽しみです。

アデュカヌマブは根治療法とは言えない?

抗認知症薬であるアデュカヌマブについて説明してきましたが、ここからは私の意見になります。

確かにアデュカヌマブは今までにないような仕組みの薬です。

アミロイドβも確実に減らしてくれるでしょう。

ただし、それが根治療法と言うのは無理があります。

根治療法とは、アミロイドβがたまりすぎる原因を突き止めて、それを改善することだからです。

アミロイドβは加齢によって誰しもがアルツハイマー病が発症するレベルまでたまるというわけでなく、アミロイドβが作られる量とたまる量は個人差が大きいものです。

個人によって原因が違いますが、その原因に立ち向かうことこそが本当の意味でアルツハイマー病を克服することです。

そしてアミロイドβがたまる原因はいろいろとわかってきています。

その原因の多くは生活習慣からきています。

新しい薬はこれからもどんどん出てくるでしょう。

医学の進歩はめざましく、そして頼もしいものですが、忘れてはいけないのは薬を使うことに頼ってはいけないということです。

あくまでも薬は補助的なもので、薬を使わない体のまま長く健康に保つことこそが健全な脳の土台となります。

一緒により若々しい脳を保つ秘訣を学んでいきましょう。

  • この記事を書いた人

山根一彦 医学博士

一般社団法人認知症協会理事。徳島大学大学院医科学教育学部卒。医学博士。 生体防御・感染症代謝を専門とし、ミトコンドリアの活性化、インフルエンザの重症化等を研究。第一三共ヘルスケア株式会社、SBIアラプロモ株式会社など、複数の大手製薬企業で商品の開発・改良に参加。知財として価値の高い複数の特許を取得。 2017年、認知症協会理事に就任。以後、認知症予防に関する講演・執筆活動を行う。2018年より一般の読者向けに無料メール(LINE)マガジンを開始し、現在の購読者は80,000人超え。著書「認知症にならない最強の食事」。

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