という記事では、日常に潜む意外な認知症リスクを紹介しました。
日常に潜む認知症リスクはまだまだありますが、認知症になることで死亡するリスクが高まる原因も意外なところに潜んでいます。
今回は、わが国における死因から、認知症になったら考えなくてはいけない身近な危険について考えていきたいと思います。
わが国に死因の第6位は「不慮の事故」
医療系の勉強をしたことがある方は誰もが一度はテストに出る問題が、
わが国の死因の順位を知っていますか?
という問いです。
厚生労働省の平成30年人口動態統計月報年計(概数)の概況によると、主な死因の構成割合は、
第1位 悪性新生物(腫瘍)
第2位 心疾患(高血圧症を除く)
第3位 老衰
第4位 脳血管疾患
第5位 肺炎
第6位 不慮の事故
となっています。ちなみに認知症が主原因とする死因は第9位となっていますが、上位の死因の中にも基礎疾患として認知症を罹患していることは大いに考えられます。
「不慮の事故」の正体は?
テストには出ないですが、この「不慮の事故」とは一体なんだろう?と思った経験があります。
平成30年における不慮の事故による年間死亡者数は、4万1,213人で、そのうち約85%を65歳以上の高齢者が占めています。
では高齢者に多い不慮の事故の正体とはどういったものでしょうか?
まず真っ先に思い浮かべるのは交通事故だと思います。
しかしながら、高齢者の交通事故の死亡者数はそれほど多くなく、年間3,000人ほどです。
交通事故よりも2倍以上多いのは、
「誤嚥性の不慮の窒息」、「転倒、転落」、「不慮の溺死および溺水」の3つです。(消費者庁「高齢者の事故の概況について」、2016年のデータ)
「誤嚥性の不慮の窒息」の多くは、食品の誤嚥で、吐瀉物による窒息も含んでいます。
東京消防庁の救急搬送データによると、窒息の原因は、詳細不明のものを除けば、おかゆ類が最も多く、餅、ご飯、肉の順です。
おかゆとは意外ですが、口にする機会が多いのでそれがそのまま数字になっているのでしょう。どのような状態の食品でも誤嚥する可能性はあるということです。
男性は特に一気に食事を口に入れ、すぐに飲み込む傾向があるようで、不慮の窒息は男性に多いのが特徴です。
「転倒・転落」は、つまづいたり、すべったり、階段から転落することが原因です。これは屋外で起こることもありますが、多くは自宅で起きています。
家庭内の階段や廊下、玄関やベッド等で発生します。
高齢者は少しの段差でも簡単につまづいて転倒し、骨折などの重大な事故に繋がっています。
脱水や風邪も原因となることが多いですが、それよりも気をつけるべきなのは多くの高齢者が定期薬を服用しているということです。
睡眠薬や精神疾患用薬、神経障害改善薬、アレルギー薬は眠気を来すことが多く、注意が必要です。
抗認知症薬の中にも意識障害を起こすものもあり注意が必要です。
「不慮の溺死および溺水」は浴槽内で溺れる事例が大半ですが、これは冬のヒートショックが大きな原因です。
気温差が10度以上あれば危険とされていますが、暖かいところから寒い脱衣所、そして熱いお湯に浸かることで血圧が急変動し、浴槽内で心筋梗塞や脳卒中を起こして意識を失い、溺死するというパターンです。
認知症は「不慮の事故」の確率をあげる
不慮の事故のトップ3の内容がわかったところで考察するに、不慮の事故の多くは家庭で発生しているといえます。
高齢者にとって最も危険な場所は”自宅”なのです。
高齢者の救急搬送のうち80%が「転倒・転落」ですので、自宅での転倒・転落リスクは解消することが必要です。
そしてやはりこの不慮の事故が起きる根本には、身体機能の低下と、認知機能の低下があります。
認知症を罹患しているとさらに誤嚥や薬の飲み間違いの機会が増えますので、さらいに危険度が高まります。
老化とともにある程度の肉体の衰えは仕方ないですが、平均寿命がどんどん長くなっている、そしてもっと長くなるであろう今後は、65歳以上でもまだまだ元気でいられるはずです。
「不慮の事故」のリスクを抑えるためには?
不慮の事故を防ぐにはどうするのが効果的でしょうか?
残念ながら年齢に伴う老化は避けては通れませんので、完全にリスクを取り除くことはできませんが、少しでも減らすためには、まず居住空間を整えるべきでしょう。
住居内の段差をなくし、階段や廊下に手すりをつけることで転倒リスクを減らすことができます。
ヒートショックを防ぐために移動範囲の室温を一定に保つことも大切です。
血圧を変動させるお酒も注意が必要です。
お酒を飲むと一時的に血圧は下がります。ここで気温差がある中入浴を行うと血圧がさらに揺さぶられます。
お酒と入浴の時間は十分に開けることが大切です。
お酒は意識レベルも低下させるので、飲酒後の階段等も注意が必要です。
意識レベルの低下は常備薬や定期薬が一番の原因です。
睡眠薬、神経系の薬、花粉症などのアレルギーの薬は眠気が一般的に出ることことが多く、あまり知られていないところでは、鎮痛薬や筋弛緩薬も眠気の副作用があります。
これらの薬は車の運転も制限していることが多く、最近の高齢ドライバーの事故とともに念頭に置いておくことが大切です。
不慮の事故も認知症も早めの予防でリスクを低減できる
結局のところ不慮の事故を抑えるためには必要以上の老化を招かないことと、健康上のリスクを早め早めに解消することだと考えられます。
転倒リスクを防ぐためには居住空間の危険な場所を取り除くとともに、つまづいてもすぐには転倒しないように筋力とバランス感覚を維持することが必要です。
不慮の溺死を防ぐためには気温差は解消するとともに、お酒やタバコの血圧を変動させる要因を取り除き、日頃から血圧を正常値に留めておくべきです。
誤嚥を防ぐには、食事は1人で食べずに、みんなでゆっくりと咀嚼しながら食べることです。年齢とともに水分摂取量も少なくなりがちですので、意識的に水分をとることも大切です。
しかしこれらの対策は、いざ不自由が出てきてからでは対応が難しいものです。
長い年月慣れた習慣であればあるほど変えるのは難しい。
それは意識の面でも同じことです。わかってはいるけど変えられない。
だからこそ早め早めに少しずつ生活習慣を見直すことが大切です。
認知症予防も同じことが言えます。
将来のことがふと不安になったら、気になってきたら、おやっと思う出来事があれば、少しでもいいのでよりよいと思うことを取り入れ、行動してみてください。
認知症協会はそのための参考になるような情報を随時発信していきます。
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