今年はじめのことですが、週刊新潮にて「ニコチンでアルツハイマーが防げる!愛煙家の胸が晴れた」という特集記事が掲載されました。
世間でもかなりの反響があり、特に「日本禁煙学会」では、医学的根拠がないどころか、この記事の根拠となる実験を行った名誉教授とタバコ産業との利益相反についても言及して波紋を呼びました。
喫煙は認知症予防という観点で”良い行い”と言えるのでしょうか?
認知症予防に禁煙は必須である
結論から言うと、認知症予防という観点で禁煙は必須の行動であると言えます。
韓国の調査では、8年間認知症と喫煙の因果関係について追跡調査した結果、タバコ煙を吸い続けた人に比べ、禁煙を4年以上継続した人では認知症のリスクが14%低く、脳血管性認知症に限るとリスクが32%低下したという結果が出ています。
日本での研究でも、喫煙を続けると禁煙を続けた場合に比べ、アルツハイマー病のリスクは2倍、脳血管性認知症のリスクは2.9倍に高まることを示す研究結果が出ています。
喫煙はなぜ健康を害するのか?
そもそもなぜ禁煙をしなければならないのでしょうか?
詳細はよく知らなくても、タバコ煙を吸うと肺が真っ黒になって肺機能が落ち、呼吸が苦しくなって肺がんになったりするイメージは浸透してきたと感じます。
数字で見ても日本における喫煙率は、厚生労働省による「平成29年 国民健康・栄養調査」において、2017年には17.7%と年々減少していると発表しています。
ただ、男性では30~39歳での喫煙率が最多の39.7%、女性では40~49歳で12.3%ということで、認知症予防の観点では、認知症の”タネ”が育ち始める大事な年代でかなり高い割合を示しています。
タバコ煙に含まれる有害物質
タバコ煙に含まれる有害物質と聞いて馴染みがあるのは、「ニコチン」と「タール」かと思います。
実は「ニコチン」には神経保護作用があり、アルツハイマー病の予防と治療効果がある、ということが認められている事実があります。
しかしながら、最初に言っておくと、”喫煙をすれば認知症になりにくい”というのは現在では否定されています。
実際には、認知症での死亡は、喫煙者の方が多いという調査結果が出ています。
「ニコチン」が厄介なのはその”中毒性”にあります。ニコチンの身体的中毒性はコカインに勝るほどです。精神的依存度もコカインに匹敵し、睡眠薬よりも依存性は高いということです。この中毒性を持ってタバコ煙の有害物質を吸い込み続けることになります。
「タール」は、ニコチンや水分を除去した粒子相の総称を言いますが、このタールの相の中には、数十種類の発がん性物質が含まれているとされ、有名なものには「ダイオキシン」があります。
さらに怖いのは、タバコ煙の主流煙に4%含まれているという「一酸化炭素」です。
換気をせずに暖房器具を使って一酸化炭素中毒となり命を落とすことがあり、ニュースでも注意喚起されていますが、一酸化炭素は酸素よりもヘモグロビンと協力に結合して呼吸困難を引き起こします。
それが喫煙するたびに少量ずつ体内に蓄積していきます。
その他にも数百種類の有害物質が含まれているとされていて、ニコチンの中毒性との相乗効果で、喫煙者が満足するまでニコチンを摂取するには同時に相当な寮の発がん物質、有害物質が肺まで到達していると考えられます。
タバコ煙によって起こる健康被害とは?
喫煙は、がん、心筋梗塞、脳卒中、肺の病気をはじめ、その他様々な病気の原因になることが確かめられています。
2007年に日本で感染症以外の原因によって亡くなった83万4000人について、死亡の原因となった危険因子別に推計したところ、最も多かったのが喫煙で、約12万9000人が喫煙をしていました。(ちなみに次に多かったのは高血圧です。)
具体的な病気との関係は、
・虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞等)
ニコチンによる末梢血管の収縮と血圧上昇,心拍数の増加、一酸化炭素のヘモグロビンとの結合による酸素欠乏、それにタバコ煙によってコレステロールの変性が起き、動脈硬化を引き起こして虚血性心疾患のリスクが増大します。
・がん
肺がん、食道がん、膵臓がん、口腔がん、中咽頭がん、下咽頭がん、喉頭がん、腎盂尿管がん、膀胱がんで喫煙との関連が明確に認められるとされ、腎細胞がん、胃がん、肝臓がん、骨髄性白血病は弱い関連が認められています。
・呼吸器疾患
喫煙によって呼吸器疾患が引き起こされるのは周知の事実ですが、肺がん以外で有名なのが「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」です。タバコ煙の長期間暴露によって、慢性的に肺が炎症を起こしている状態です。日本人の死因第10位になるほど喫煙で引き起こされる危険な病気です。
・認知症
喫煙によって動脈硬化が引き起こされると、脳血管性認知症のリスクは増大します。喫煙によって脳の萎縮、特に記憶を司る前頭葉の萎縮も認められていて、5〜10年萎縮が早まっていくと言われています。
アルツハイマー型認知症についても、福岡県久山町における研究で、中年期から老年期までの喫煙習慣で、禁煙を続けた場合に比べアルツハイマー病のリスクは2倍になるという結果が出ています。
喫煙は体全体の老化を早め、認知症の発症リスクも底上げします。
上記はあくまで代表的なものですが、他にも様々な病気と因果関係があるといわれています。
副流煙による受動喫煙のリスクは?
喫煙は喫煙者自身が肺に吸い込む主流煙と、体に入らない副流煙に分かれますが、副流煙の影響はどれほどでしょうか?
実は、副流煙も主流煙と多少pH等に違いがあるものの、引き起こす疾患は変わらないということがわかっています。
すなわち、肺がん、副鼻腔がん、子宮頸がんなどの癌では、受動喫煙の量に比例して発症リスクが増大します。
虚血性心疾患への受動喫煙の影響は肺がんよりもさらに明確で、非喫煙者の心筋梗塞の死亡率が1.3倍に高まり、受動喫煙をうける人のうち1~3%が受動喫煙が原因となった心筋梗塞で死亡することが示されています。
ちなみにこれは、自動車の排ガスなどの死亡確率とは比べ物にならない大きな健康被害を及ぼしていることになります。
さらにタバコを吸わない人の心筋梗塞の死亡のうち,20%は周囲の人のタバコの煙が原因とも言われています。
副流煙による深刻なリスクの1つに、「乳幼児突然死症候群」があります。
・乳幼児突然死症候群
まず母親の妊娠時の喫煙で、一酸化炭素による低酸素血症と胎盤を通過する有害成分により、早産や周産期死亡の比率が1.2~1.4倍に増加することがわかっています。
さらには妊婦本人の喫煙だけではなく、家族や周囲の喫煙によっても低体重児などの胎児の発育遅延が1.2倍に増加します。妊娠初期までに禁煙すれば発育遅延は回避できることもわかっていますので、言わずもがな妊婦さんは喫煙は厳禁です。
乳幼児突然死症候群(SIDS)は、生後1年未満の乳幼児の原因不明の突然死ですが、乳幼児の死亡の原因としては大きいものです。
原因は確かにはっきりしていませんが、日本での研究では疫学的に「父母共に習慣的喫煙あり」は、「父母共に習慣的喫煙なし」に比べて約4.7倍程度、乳幼児突然死症候群が発症すると報告されています。
どれだけの量と期間、受動喫煙したら危険か?
喫煙も副流煙による受動喫煙も、健康被害の深刻さは同じであることがわかっていただけたでしょうか。
では一体どれほどタバコ煙に暴露されたら健康を害するのでしょうか?
暴露の量と時間も様々ですので細かい調査結果はありませんが、2006年米国公衆衛生長官報告では、受動喫煙をするとすぐに心臓血管系に悪影響があらわれること、虚血性心疾患がおこりやすくなることが報告されています。
結果として、受動喫煙に安全無害なレベルなどなく、少しでもタバコ煙を吸い込んだ時点でなんらかの悪影響が身体に起きているということが予想されます。
喫煙がもたらす喫煙者自身と周囲の人に対する影響は甚大であり、その習慣が喫煙者にとってリラックス効果を一時的にもたらすにせよ(これはニコチン離脱症状と考えられるが)、健康被害の方が大きいと近年さらに認識されています。
それに伴って日本でも”分煙”から”完全禁煙”に移行する企業が多く、医療機関はもとより、ファミリーレストランでさえも完全禁煙になっているところが多くなっています。
法律の面でも、禁煙をルールではなく”義務化”する法律が2018年7月に成立し、2020年4月1日より全面施行されます。
多数の利用者を相手にしている企業には、禁煙を促進、守らせる義務が生じ、それに違反すると罰則もあります。
電子タバコはどうなのか?
最近では紙巻タバコでなく、電子タバコなどの火を使わず燃やさない新型タバコが広く浸透してきました。こういった新型タバコの健康に対する影響はどうなんでしょうか?
製造メーカーは、「健康への悪影響が懸念される物質は紙巻タバコ煙より少ない」としています。
確かに有害物質の中には燃焼したときに発生するものも多く、新型タバコはその発生が減少していると考えられます。
副流煙にしても同様で、紙巻タバコ煙よりも有害物質は少ないと考えられます。
しかし、それは”量が少ない”というだけであって、中毒性と蓄積性は変わらず持ち合わせています。現在のところ新型タバコの健康への悪影響が少ないとする医学的根拠がありません。
日本呼吸器学会は、新型タバコを推奨できないとする見解を示しており、他の学術団体も同じように注意を呼びかけています。
まとめ
今回は喫煙と認知症、健康被害について考察しました。
改めて考えるに、認知症予防に禁煙は必須です。それどころか、副流煙も吸わないことがベストです。近くに喫煙者がいる場合は、是非禁煙を進めてください。
今回紹介した健康被害は、禁煙することでかなりの確率で改善することがわかっています。具体的には大規模循環器疾患疫学調査であるFramingham Studyで、禁煙後1年で冠動脈心疾患の罹患率は大幅に低下したという報告があります。
今禁煙すれば、1年後は今より健康だということになります。
禁煙のもたらすメリットは計り知れません。
喫煙している方は、この機会にぜひ禁煙を検討して見て下さい。