認知症に対する対応に行政も試行錯誤。神戸モデルについて考える。
12月5日、兵庫県神戸市で全国初の認知症の方が起こした事故に関する救済制度をまとめた「認知症の人にやさしいまちづくり条例」改正案が市議会で賛成多数で可決されました。
●「神戸モデル」の内容は?
神戸市では今年3月時点で約6万3千人の認知症の高齢者がいるとされています。
今回の条例改正案の救済制度は、認知症と診断された人に民間保険に加入してもらいますが、
この保険料は神戸市が負担をします。
加入してもらう民間保険は家族が監督責任がある場合も対応できるもので、
認知症の方が引き起こしてしまった火災や傷害など(自動車事故は除く)の事故で賠償を求められた時に、保険会社が最大2億円を支払います。
自動車事故は、現行の自賠責保険で対応できるため除外ですが、認知症と診断された方は原則運転はしてはいけないことも覚えておきましょう。
民間保険に加入する費用を市が代わりに負担する制度は実は他の自治体でも導入しているところもあります。
背景としては、2007年に愛知県大府市で認知症の男性が列車にはねられて死亡し、JR東海は家族に約720万円の損害賠償を求めて提訴しました。
最高裁で敗訴になりましたが、判決は家族が賠償責任を負う可能性があることを示唆したものでした。
そうした背景も踏まえて「神戸モデル」では、被害者側に最高3千万円の見舞金を給付することを盛り込んでいます。
(2018年12月5日朝日新聞DIGITAL)
他にも市民は無償で認知症の早期受診ができたりと、かなり思い切った改正案となっています。
●財源は?
この制度に係る経費は年3億円と見積もられています。これを市民税を400円一律に上乗せすることでまかなうということです。
来年4月から運用とのことです。
市が9月と10月に募った市民の意見には396通が寄せられ、この400円の市民税上乗せには賛否あったということです。
神戸市によると、
認知症は他人事ではないので先送りすることなく薄く広く負担をお願いしたい、ということです。
神戸市としては、全国的な制度へと発展させたいと考えているようです。
●認知症の方にとっても家族にとっても安心できる制度
今回の条例改正案は、認知症の方やその家族の方にとってとても勇気づけられる制度ではないでしょうか。
認知症の方は認知症の進行度合いであるステージによっても病態が異なりますが、
家族の方にも予想できない行動をするものです。
いざというときに自治体がなんとかしてくれる、というのは安心に繋がります。
●今後の見通しは?
一方で、超高齢化社会が進んで、2017年では1000万人とも言われる認知症患者に対して、
このような費用はどんどん増加すると考えられます。
神戸市だけの問題ではありません。
全国的に認知症に対しての条例の整備と財源を確保する必要があります。
今回の神戸市の例は、認知症のケアに対する費用が多額になることを示したとともに、
将来的にその費用は莫大に増加する可能性を示唆するものとなっています。
明日は我が身、というわけではないですが、
老若男女問わず、認知症に対して真剣に向き合わないといけな時期はすでに過ぎているのです。