一度認知症と診断されてしまったら、「完治」はないと考えられています。
一部、原因のはっきりしている認知症は限りなく元に戻ることはありますが、認知症の4つの種類で最も多い「アルツハイマー型認知症」は特に、その原因も全てがわかっていないので、治し方すらわかっていません。
脳で起こる様々な不可逆反応の結果、認知機能の低下として表れてしまいます。
認知症になってしまったら薬も含めて有効なものはない、だからこそ予防が重要です。
認知症協会は、そのための知識を幅広くお伝えしようと努力していきますが、今回は、認知症の大きなリスクとなる糖尿病の基礎について、紹介したいと思います。
糖尿病そのものも認知症のリスクを上げますが、「高血糖状態」も脳にダメージを与えるため、”Ⅲ型糖尿病”とも言われる認知症。
もしかしたら、知らず知らずのうちに糖尿病になっている可能性もありますので、頭に入れて頂けると幸いです。
そもそも糖尿病はどんな病気?
糖尿病(DM:diabetes mellitus)は、紀元2世紀ごろからカッパドキアでその名前が確認されているので、世界ではかなり昔から存在していた病気であると考えられています。
糖尿病とはそのままズバリ、尿に出ないはずの糖が出てくる病気、という意味ではありません。
腎臓の疾患のおかげで尿に糖が出ることもあったり、個人差も大きいので、尿に糖が出てくるのは進行した1つの症状に過ぎない、ということになります。
もちろん尿に糖が出れば日常生活で気づくことができます。
尿が泡だってその泡が全く消えなかったり、甘い(バナナの熟れたような)匂いがしたり、
気付きやすいのは、トイレ掃除をしているとさっと拭き取れないベタつく汚れがあったり、
中には尿に蟻がたかって気づく場合もありますが、これらの状態はかなり進行していますので病院ですぐに検査をしてもらう必要があります。
そもそも尿に糖がはっきりと出ていなくても、糖尿病であると診断されるのです。
血液中に糖が溢れ出すのが糖尿病
糖尿病は、血液中のブドウ糖の濃度である血糖値が高くなり過ぎる病気です。
ブドウ糖は、グルコースとも言いますが、人間の活動の最も基本なエネルギー源です。
食べ物から作られたブドウ糖は、血液に乗って全身の細胞に送り届けられます。
ブドウ糖が無くなってしまうともちろん生命維持ができなくなりますし、多すぎても処理しきれなくなります。
そのバランスを調節しているのが、「ホルモン」です。
ホルモンとは、体に起こる刺激に対して特定の器官や臓器から分泌され、別の細胞で効果を発揮する生理活性物質のことですが、
結果的に血糖値を上げるホルモンはアドレナリン等様々にありますが、
血糖値を下げるホルモンは唯一、膵臓のランゲルハンス島β細胞から分泌されるインスリンのみです。
このインスリンの分泌量が減ったり、インスリンの働きが低下したりすると、ブドウ糖は筋肉や脂肪細胞にうまく取り込まれなくなります。
その結果、血糖値が高くなりすぎて糖尿病となります。
ちなみに耳にしたことがあるかと思いますが、「インスリン抵抗性」とは、個人によって同じ量のインスリンを打っても効きがよい人と悪い人がいることから見出された概念で、
糖尿病が進行するにつれてインスリン抵抗性が大きくなる、つまりインスリンが効きにくくなります。
現在ではこのインスリン抵抗性の大小が、生活習慣病が生死に関わるリスクとなる得る根本である、という考え方が一般的です。
糖尿病の種類は2+1
糖尿病には、主にⅠ型とⅡ型という種類があります。
・Ⅰ型糖尿病
膵臓のβ細胞が何かしらの原因で破壊されて発症する糖尿病です。
主には自己免疫疾患ですが、β細胞が壊れることで絶対的インスリン不足の状態になるので、治療はインスリン補充療法しかありません。
発症年齢は乳幼児から成人まで幅は広いです。
糖尿病全体の5%といわれています。
・Ⅱ型糖尿病
生活習慣と関わりが深い後天性の糖尿病です。
生活習慣からくるものなので、予防と治療が可能ですが、進行すると不可逆的な病態になり、完治は難しいとされています。
認知症予防の観点からいうと、糖尿病と診断され、体に変化が表れてしまっていたら、脳へのダメージはすでに蓄積していると考えてよいでしょう。
糖尿病全体の約90%を占めていて、普段糖尿病というと、このⅡ型糖尿病のことを指しています。
中年以降に多く発症します。
・その他の糖尿病
Ⅰ型とⅡ型の他に、「妊娠糖尿病」というものもあります。
妊娠中に初めて見つかる糖尿病のことで、母体が高血糖状態ならば胎児も高血糖状態になるので、お母さん、赤ちゃんともに重篤な合併症が起こることがあります。
妊娠糖尿病のリスクもやはり、肥満などの生活習慣病、高齢出産、糖尿病家族歴が挙げられます。
そして近年認知症研究が盛んに行われている中で生まれた見解が、
認知症がⅢ型糖尿病である、
ということです。
認知症はⅢ型糖尿病
アルツハイマー型認知症の要因の一つは、脳内での「アミロイドβ」という異常タンパクの蓄積ですが、
実はインスリンを分解する酵素(IDE)が、アミロイドβも分解することがわかってきました。
血糖値が上がってインスリンが分泌されると、血糖値は下がりますが、高血糖状態が長く続くと、インスリンが分泌されても効きが悪く、かつインスリンが余ってきます。
そうすると高インスリン血症という状態にある、インスリン分解酵素が働きますが、それでも分解しきれないインスリンが出てきます。
そうなると、アミロイドβは分解されない状態が続くので、認知症のタネが育ち続けるということです。
さらに、脳内のインスリン量は血中より高いことから、脳細胞にインスリンの働きが非常に重要な可能性も示唆されています。
つまり、脳内のインスリン量の異常や、インスリン抵抗性が進むことは、脳細胞、脳の神経細胞にダメージを与える可能性が高いのです。
その他にもインスリンには血管を詰まらせない効果や、まだ明らかになっていない作用が、良いことも悪いことも含めてあるので、
脳内でのインスリンの働きが正常化しているということは、認知症のリスク管理としては大変重要なことになります。
以上のことから今やⅢ型糖尿病といわれる認知症ですが、
インスリン抵抗性は糖尿病として現れる前から日々の生活習慣の中で少しずつ上がっていくということもわかっています。
インスリンの多い脳内ではさらに早くからダメージがある可能性があります。
もう説明しなくとも、認知症予防がいかに早期開始が重要かお分かりかと思います。
どうしたら糖尿病になるのか?
糖尿病になるリスクは個人差があります。
遺伝的な要素も関係します。
特に問題となるのは、膵臓のインスリン分泌が不足する体質です。
この体質の人が肥満になった場合、インスリンの働きが低下するため、より糖尿病を発症しやすくなります。
そしてこの体質は日本人に多いと言われています。
他にも糖尿病に関係する遺伝子は100種類以上も発見されていて、それらの遺伝子の変異が複数重なることで、糖尿病の発症リスクが高くなると考えられています。
ですので、糖尿病の疑いで病院に行くと、まず近親者に糖尿病のある人がいるかどうかを聞かれるわけです。
広い意味では骨格、体型で脂肪が局所に貯まりやすいこともありますので、これも遺伝と考えることもできます。
ただ、遺伝のみで発症するケースはごく一部で、
多くは「糖尿病になりやすい体質」なだけで、糖尿病になるとは限りません。
日頃から健康管理をしながら生活することで、糖尿病は予防できるのです。
甘いものを食べるのが悪いわけではない
甘いものが好きな人は多いと思います。
毎日毎日アイスクリームを食べるような人もいるかと思います。
多くの人が勘違いをしているのは、
甘いものを食べるから糖尿病になるわけではない、ということ。
糖分という意味では、ご飯も芋類も同じです。お酒にも大量の糖分が入っています。
問題は血糖値の上昇と食べる量、そしてインスリンの働きです。
甘いものも糖分ですが、糖分自体は体に必要です。
ただし、食べる量が多くなったりブドウ糖の消費が間に合わない場合、インスリンをたくさん出さないと処理できない場合は、
インスリンを出す膵臓に負担がかかります。
すると段々と膵臓のインスリンを出す能力が失われていきます。そして一度インスリン分泌能が失われると、β細胞自体を増やす以外に回復することはないといわれています。
膵臓を大事にして、インスリン分泌能を保つためには、
急激な血糖値の上昇を避け、持続的に血糖値をあげる食べ過ぎ、飲み過ぎを防ぎ、膵臓を保護する栄養をとることが大切です。
膵臓にあまり負荷をかけないようにすることを考えれば、食生活もどういうものがいいか想像しやすいでしょう。
糖尿病の発症につながるリスク
一般的に糖尿病が発症するリスクは生活習慣にありますが、わかりやすいものでは次のものがあります。
肥満
肥満があると、インスリンの働きが低下し、血糖値が上がります。
20歳の時に比べて、体重が5kg以上増えている人は、糖尿病のリスクが約2.6倍になるという報告もあります。
内臓脂肪型肥満
肥満の中でも特に内臓の周りに脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満は、糖尿病のリスクを高めることがわかっています。
特徴はぽっこりお腹で、おへその高さで測った腹囲が男性で85cm以上、女性では90cm以上ならば注意が必要です。
高血圧・脂質異常症
内臓に脂肪が溜まると、高血圧も発症しやすくなります。高血圧が先か糖尿病が先か、それは個人差ですが、リスクは同じだけあります。
BMI(体重kg÷身長m÷身長m)が25を超えると赤信号ですが、できるだけ22を維持しましょう。
喫煙
タバコも糖尿病の発症に影響します。
日本人を対象にした研究から、喫煙によりⅡ型糖尿病のリスクが約38%高くなることと、喫煙の本数が増えれば増えるほどリスクが高くなることがわかっています。
という記事にも書きましたが、副流煙も、電子タバコも健康を害することが発表されています。
糖尿病の目安は?
糖尿病は自覚症状がないので早期発見が難しい病気です。
早期発見のためには健康診断等で血液検査を受けるか、自分で血糖を測れるものも売られていますので、1週間に一度に測定することも有効です。
自分で測定できるのは、「空腹時血糖値」と「随時血糖値」です。
病院では、「ヘモグロビンA1c」が測定されます。
空腹時血糖値
何も食べない状態で測定する血糖値です。朝食を抜いて測定するのが一般的です。
100mg/dL未満が正常と覚えておきましょう。
随時血糖値
空腹かどうかを問わない状態で測定した血糖値になります。
140mg/dL未満が正常だと覚えておきましょう。
ヘモグロビンA1c(HbA1c)
糖尿病の方の血糖コントロールで欠かせない数値がHbA1cです。
これは、血液中の糖化ヘモグロビンを測定しています。
ブドウ糖がヘモグロビンとくっついたものが糖化ヘモグロビンですが、血液中にブドウ糖が多くなると、糖化ヘモグロビンの量は多くなります。
この糖化ヘモグロビンは、赤血球が寿命を迎えるまでなくなりません。
赤血球の寿命は約120日なので、HbA1c値は過去1〜2ヶ月の血液中のブドウ糖の量が推測できるので、血糖コントロールができているかの指標に使われるのです。
5.6%未満が正常だと覚えておきましょう。
実際に診断は、どれか1つが異常値でも糖尿病と診断されるわけではありません。さらに経口ブドウ糖負荷試験も組み合わせることもあります。
ただし、認知症予防の観点では、1つでもなんらかの異常値が出て、生活習慣に思い当たることがあれば、積極的に是正していくべきです。
認知症と糖尿病の最新知見
Ⅲ型糖尿病と言われ始めた認知症ですが、最新の研究によって認知症と糖尿病の深い関係が明らかになっています。
例えば東京大学の研究では、糖尿病になりインスリン抵抗性が増す現象が脳でも起こることから、アルツハイマー型認知症との関連性を見つけています。
マウスの実験では、高脂肪食を与え続けるとストレスシグナルや炎症性サイトカインが増え、脳内でのインスリン抵抗性が増すと、アミロイドβの蓄積も増えることが確認されています。
要は、脂肪の取りすぎや糖質の摂りすぎによるカロリーオーバーの連続で血糖値コントロールの要のインスリンが効かなくなるインスリン抵抗性が起き、アミロイドβの蓄積も増える、ということになります。
この研究チームの発表では、その後、高脂肪食を制限することで、インスリン抵抗性が改善し、アミロイドβの蓄積も減少した、ということです。
まさに生活習慣の改善ですよね。
しかしながら、ここは全部が全部アミロイドβがなくなるのは難しいと考えるべきだと思います。
それにアミロイドβが一旦蓄積されると脳細胞にダメージを与えるので、それは不可逆的なダメージです。
大切なのはインスリン抵抗性を上げないようにすることが重要だということです。
その他の研究では、逆に脳からの神経伝達により膵臓のβ細胞の増加を促しインスリンを増加させることも確認されているようです。
脳と、内臓脂肪と、インスリンは密接に関わっているということは、肥満、糖尿病、肥満と血糖値、インスリン抵抗性、そして認知症は切っても切れない縁があるということでしょう。
では
インスリンを効くようにするにはどうしたらいいか?
膵臓を保護するにはどうしたらいいか?
インスリン抵抗性を改善する栄養素はあるのか?
などなど、糖尿病関連の疑問も別記事で紹介していこうと思っています。
今回は認知症がⅢ型糖尿病という観点から幅広く紹介しました。
先日も認知症患者さんの介護の現場に行きましたが、やはり想像を遥かに超えた過酷さがあります。
”記憶が失われる”ということは残酷なことではありますが、”その人らしさ”というのは失われることはない、ということを知れた時間でありました。
無料の書籍にも認知症を遠ざける可能性を示しています。
ぜひ読んでみてください。
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